先日、普段フランスに住むベトナム人と食事をした際に、「日本のウイスキー」が話題に挙がりました。

「フランスといえば、ワイン」と単調なイメージしか持ち合わせていなかった私にとって、かなり興味をそそられる内容でした。(酒一滴も飲めないのに何言ってんだ。)

フランスでは、日本のウイスキー需要が高まっているって知っていましたか?

背景に、2024年4月から、ジャパニーズウイスキーの自主基準が完全施行(偽物のジャパニーズウイスキーを排除する厳しい新基準が本格適用)されたことがあり、これが、フランス市場での信頼・人気向上の後押しとなっているそうです。

当記事では、日本とフランス両国の酒類市場について「市場規模」、「1人あたりの年間酒類消費支出」、「価格動向」、「各国市場の特徴と生活文化」の4項目をそれぞれ比較してみます。(はい、お察しの通り、眠たくなる記事です。)

当記事の要点
  1. 市場の「プレミアム化」へのシフト: 両国とも健康志向や人口減で消費量は微減しているが、単価の高い「プレミアム商品」への移行により、市場規模(金額)は維持・拡大の傾向にある。
  2. 圧倒的な品目構成の違い: 日本の市場は「ビール・RTD」が約7割を占めるのに対し、フランスは「ワイン」が約6割。同じ酒類市場でも、主力となる主役が明確に異なる。
  3. 「酒税」が価格構造に与える影響:日本のビール価格の約3〜4割が税金であるのに対し、フランスのワイン酒税は極めて低い(1Lあたり数円程度)。フランスの消費支出は、よりダイレクトに「液体そのもの」の価値に支払われているという構造的差異がある。
  4. ライフスタイルの変化:RTD・ソバーキュリアス: 日本は「手軽・低価格」なRTDが独自の進化を遂げている一方、フランスではあえてアルコールを飲まない「ソバーキュリアス」というライフスタイルが定着し、ノンアルコール市場が急拡大している。
  5. ウイスキー市場の期待値: フランスは世界有数のウイスキー消費国であり、蒸留酒市場の約2割を占める。地産地消の動きもあるなかで、ジャパニーズウイスキーのブランド力は極めて高く、今後の参入・拡大のポテンシャルを秘めている。

 

まずは、日本・フランス両国の酒類市場を比較してみます。

両国の酒類市場比較表|2024年度

両国ともに、健康志向の高まりや人口動態の変化により、全体的な消費ボリューム微減傾向にあります。

にもかかわらず、市場規模(金額)は、商品のプレミアム化(高単価へのシフト)によって、維持または上昇しています。

小売ベースの酒類市場

項目 日本 フランス
人口 1億2380万2千人 6,860万人
生産年齢人口 約7,370万人 約4,300万人
生産年齢人口率 約59.6% 約62.9%
市場規模(小売ベース) 約4.2兆円 約2.8兆円
USドル / ユーロ 280億ドル / 254億ユーロ 186億ドル / 170億ユーロ
発泡性酒類 約2.2兆円 約0.5兆円
市場シェア 約52% 約18%
ビール、発泡酒、シャンパン等 酒税改正でビール回帰が進行 シャンパン等の高付加価値品が中心
醸造酒類 約0.6兆円 約1.6兆円
市場シェア 約14% 約57%
日本酒、ワイン等 日本酒の国内消費は減少し輸出が好調 世界最大のワイン市場。依然として圧倒的
蒸留酒類 約0.8兆円 約0.6兆円
市場シェア 約19% 約21%
焼酎、ウイスキー、ブランデー等 ジャパニーズウイスキーが牽引 コニャックやウイスキーの消費が根強い
混成酒類 約0.6兆円 約0.1兆円
市場シェア 約15% 約4%
RTD(*)・リキュール等 缶チューハイが急成長中 カクテル文化はあるがRTDは未浸透

国税庁INSEE等の業界推計を参考に作成

(*)RTD: Ready to Drink(レディ・トゥ・ドリンク)」の略。缶や瓶を開ければ、そのまま飲める状態に調合されているアルコール飲料を指します。缶チューハイや缶カクテル、ハイボール缶などが代表的な商品。

メーカー出荷ベースの酒類市場規模

  • 日本: 約3.4兆円(226億ドル / 206億ユーロ)
  • フランス: 約2.0兆円(133億ドル / 121億ユーロ)

日本の場合、酒税が高くスーパーやコンビニの流通マージンが、約15〜25%程度加算されるため、小売ベースでは約4.2兆円まで膨らみます。

一方、フランスの場合、ワイン等の生産者が直接販売するケースや、飲食店でのマージン率が高いため、出荷額と末端消費価格の差が日本より大きい傾向にあります。

ウイスキー(区分: 蒸留酒類)の市場シェアについて

両国ともに全体の20%ほど。

ちなみに、フランスに住むベトナム人が曰く、「フランスでウイスキーと言えば、ほとんど例外なくジャパニーズウイスキーを指す。」そうです。

 

1人あたりの年間酒類消費支出(2024年度 推計)

日本とフランスでは、「お酒を飲む場所」と「飲む種類」によって、支出構造に大きな違いがあります。

項目 日本 フランス
合計支出額(*年間) 約34,000円 約42,000円
品目別支出 ビール > RTD > 清酒・焼酎 ワイン > 蒸留酒 > ビール
USドル / ユーロ 227ドル / 206ユーロ 280ドル / 255ユーロ
 家飲み(家庭内) 約18,000円 約22,000円
 家飲み率 53% 52%
 外飲み(飲食店) 約16,000円 約20,000円
 外飲み率 47% 48%

(*)年間の合計支出額は、乳幼児や非飲飲者を含む、人口全員で割った平均値です。

※成人(15歳以上)のみに限定した場合、フランスは約62,000円、日本は約45,000円程度まで上昇します。

支出行動

フランスはワインに対する酒税が、1リットルあたり数円程度と極めて低ことが特徴です。

対して日本は、ビールの価格の約3〜4割が酒税であり、消費者は税金を払っている感覚が強いのが特徴です。

外食文化について

フランスでは、週末のテラス席での飲酒文化が根付いており、インフレ下でも「外で楽しむ一杯」への支出を惜しまない傾向があります。

一方、日本はコロナ禍を経て「家飲み」が完全に定着し、外食での酒類支出の回復がフランスに比べて緩やかです。

「ソバーキュリアス(Sober Curious)」の影響

とは言うものの、昨今のフランスでは「あえてお酒を飲まない、または低アルコールを選ぶ層が増加」しており「ノンアルコール飲料への支出」が急速に伸びています。

日本の「休肝日文化」とは異なり、フランスでは「ライフスタイルとしての非飲酒」が支出構造に変化を与え始めています。

「ソバーキュリアス(Sober Curious)」って知っていますか?

  • お酒は飲めるけれど、健康やウェルネス、精神的な豊かさを求めて「あえてお酒を飲まない」というライフスタイルや考え方。
  • 英語の「sober(しらふ)」と「curious(好奇心旺盛な)」を組み合わせた造語

..らしいです。まさに、下戸の私にぴったりの造語です。

 

主要3品目の価格動向|2024年度

2024年度は世界的な原材料費・物流費の高騰により、両国で「値上げ」と「二極化」が顕著です。

品目①|ワイン

日本

円安の影響を受け、欧州産輸入ワインが10~20%程度値上がり。デイリーワインから1,500円〜2,000円帯への中価格帯シフトが見られます。

フランス

生産コスト増により販売価格は上昇。一方で、若者のワイン離れ(赤ワインの消費減)により、生産調整と高価格帯(オーガニック等)へのシフトが加速しています。

 

品目②|ウイスキー

日本

サントリーやニッカ等の主要メーカーが2024年春に大幅値上げ(15%〜50%以上)。「響」「山崎」等のプレミアム品は市場で枯渇し、二次流通価格が高騰。

フランス

世界有数のウイスキー消費国。スコッチの輸入価格上昇に伴い、1本30€〜50€の「フランス産シングルモルト」への関心が高まり、地産地消による価格安定化の動き。

 

品目③|ビール

日本

2023年10月の酒税改正(ビール減税)により、第3のビールからビール本体への需要回帰が継続。価格は原材料高で微増ですが、購買頻度は安定。

フランス

クラフトビール(Bières Artisanales)の普及により、平均購入単価が上昇。スーパーでも1瓶(330ml)3€以上の高単価商品が一般的になりつつあります。

 

各国市場の特徴・生活文化

日本市場の特徴|RTDのガラパゴス的進化

日本の最大の特徴は、RTDの多様性と技術力です。

フランスでは「お酒は食事と共にゆっくり飲むもの」という意識が強い一方、日本では「手軽さ・低価格・低アルコール」が重視されます。

 

フランス市場の特徴|健康と環境

フランスでは「Sober Curious・Sobriété(節度)」と言うキーワードが、トレンドらしく。

2024年は、特に「ノンアルコール・ワイン」や「低アルコール・スピリッツ」の市場が拡大しており、公的機関(OFDT等)も消費量の減少と健康への影響を注視・国民へ呼び掛けています。

 

当記事の要点(再掲)
  1. 市場の「プレミアム化」へのシフト: 両国とも健康志向や人口減で消費量は微減しているが、単価の高い「プレミアム商品」への移行により、市場規模(金額)は維持・拡大の傾向にある。
  2. 圧倒的な品目構成の違い: 日本の市場は「ビール・RTD」が約7割を占めるのに対し、フランスは「ワイン」が約6割。同じ酒類市場でも、主力となる主役が明確に異なる。
  3. 「酒税」が価格構造に与える影響:日本のビール価格の約3〜4割が税金であるのに対し、フランスのワイン酒税は極めて低い(1Lあたり数円程度)。フランスの消費支出は、よりダイレクトに「液体そのもの」の価値に支払われているという構造的差異がある。
  4. ライフスタイルの変化:RTD・ソバーキュリアス: 日本は「手軽・低価格」なRTDが独自の進化を遂げている一方、フランスではあえてアルコールを飲まない「ソバーキュリアス」というライフスタイルが定着し、ノンアルコール市場が急拡大している。
  5. ウイスキー市場の期待値: フランスは世界有数のウイスキー消費国であり、蒸留酒市場の約2割を占める。地産地消の動きもあるなかで、ジャパニーズウイスキーのブランド力は極めて高く、今後の参入・拡大のポテンシャルを秘めている。