近年、世界のサプライチェーンにおいて「ポスト中国」の筆頭として圧倒的な存在感を放つベトナム。

その勢いは数字にも顕著に表れており、輸出額は、直近の20年間で14倍超2016年以降安定した貿易黒字を継続しています。

ベトナムの輸出総額
2005年 約324億ドル
2025年 約4,750億ドル

※2005年の輸出総額: 約324億ドル。
※2025年の輸出総額: 約4,750億ドル(前年比17.0%増 / 過去最高額を記録)

なぜ、これほどまでにベトナムへ投資が集中し、輸出が伸び続けているのでしょうか。

また、この急成長の影に潜む「外資依存」や「他国と比べて高すぎる物流コスト」といった懸念点は、今後どのようにベトナム経済へ影響していくでしょうか。

当記事では、ベトナム輸出を押し上げる「6つの主要要因」と、今後備えるべき「5つのリスク」を解説します。

輸出額について「国・地域別」や「品目別」でより詳しく把握したい方は、参考記事(外部サイト)「外資投資が牽引する輸出の拡大、産業基盤を築く|日本貿易振興機構(ジェトロ)」をご覧ください。

1.輸出が増え続けている6つの主要要因

1-1.「チャイナ・プラスワン」による投資の集中

2010年代半ば以降、米中対立の長期化を受け、グローバル企業がサプライチェーンを中国から東南アジアへ分散させる動きが加速しています。

ベトナムは、中国と陸路で接する地理的優位性があり、中国で培ったサプライチェーンを維持したまま生産拠点を移管できるため、製造業の受け皿として世界各国の企業から圧倒的な支持を得ています。

1-1-1.世界企業がサプライチェーン再編に注力した国際環境の変化とは?

  • 米中貿易戦争|トランプ米政権下の2018年3月に本格化
  • 中国の人件費上昇|2008年のリーマンショック以降
  • 地政学リスクの分散
  • サプライチェーンの多極化

代表的な企業として、「Samsung Electronics(サムスン電子)」や「Apple(アップル)」、「Intel(インテル)、「Nike(ナイキ)」等の多国籍企業は、「中国+1(チャイナプラスワン)」戦略を採用し、中国以外の製造拠点として、ベトナムへの投資を拡大。

とりわけ、「SamsungElectronics」が、2008年にベトナム北部(バクニン省・タイグエン省)を中心に進出して以降、追加投資を継続し、当記事執筆現在、累計投資額が200億ドル(約3兆円)を超え、北部バクニン省単体でも1兆円を大きく超える投資が実行されています。

参考記事(外部サイト): サムスン進出でスマホの輸出大国に、部品生産も拡大|日本貿易振興機構(ジェトロ)

その結果、電子機器・衣料・靴等の輸出型製造業が急拡大し、ベトナムの輸出額を押し上げています

1-2.FTA(自由貿易協定)網による高い競争力

ベトナムは、15以上の協定を発効しており、ASEAN諸国の中でも際立って多くのFTAを締結している国です。

  • CPTPP(環太平洋パートナーシップ協定)
  • EVFTA(EU・ベトナム自由貿易協定)|欧州市場への関税撤廃が強力な武器に
  • RCEP(地域的な包括的経済連携協定)|世界最大のFTA
  • 日・ベトナムEPA(経済連携協定)
  • AJCEP(日・ASEAN包括的経済連携)..等。

これらの協定により、ベトナム産製品は、世界の主要市場へ「低関税・無関税」でアプローチできるため、他国製品に対して価格競争力で優位に立っています。

日本とは、「CPTPP」や「RCEP」、「日・ベトナムEPA」、「AJCEP」と、複数の枠組みで低関税が適用されています。

積極的にFTA網を構築することで、

  • 関税削減
  • 原産地ルールの優遇
  • 市場アクセス拡大

が実現し結果的に、輸出(入)拡大へと繋がっています。

また、EU市場では、最大99%の関税撤廃が予定されています(*EVFTA)。

(*EVFTA / EU・ベトナム自由貿易協定): 2020年8月1日に発効し、10年以内に相互の関税の約99%を段階的に削減・撤廃することで、ベトナムの繊維、履物、農産物、水産物などの輸出競争力を大幅に強化する包括的な経済連携協定。

1-3.安価で質の高い労働力の継続供給

タイや中国で急速な少子高齢化が進む中、ベトナムは依然として生産年齢人口が多く、比較的安価な賃金水準を維持しています。

項目 中国 ベトナム タイ
生産年齢人口 8億5798万人 約6,700万人 約4,700万人
全人口の割合 約60.9% 約68% 約71.8%
製造業の平均賃金/月 約9〜10万円 約3.5〜4.5万円 約5.5〜7万円

※上表数字は、2024年度
※生産年齢人口: 15〜64歳
※参考記事(外部サイト): 日系企業のベースアップ率や給与水準明らかに、2024年度アジア・オセアニア日系企業実態調査|日本貿易振興機構(ジェトロ)

単に「安い」だけでなく、読み書きの能力が高く勤勉な国民性が、精密機器や電子部品の組み立てといった高度な製造工程の誘致に成功しています。

また、中国タイ比較すると、製造業の平均賃金は依然として低く、これにより企業は、「人件費削減」と「労働集約型産業での活動」が可能となり、輸出型工業の競争力を維持しています。

1-4.政府の積極的な外資誘致政策

ベトナム政府は外資系企業(FDI)に対して、法人税の免除・減免措置や工業団地の整備を戦略的に実施しています。

2025年現在、ベトナムの輸出総額の約73%以上をFDIセクターが占めており、政府の「外資主導による輸出成長」戦略が数字上で実を結んでいます。

主な政策は、

1-4-1.投資優遇制度

  • 法人税減免
  • 土地賃貸優遇
  • 輸入税免除

1-4-2.工業団地の整備

  • 輸出加工区
  • ハイテクパーク
  • 経済特区

1-4-3.投資手続きの簡素化

これらにより、外国企業は比較的スムーズに工場投資が可能となっています。

1-5.主要輸出品目の高付加価値化|電子機器輸出の爆発的成長

かつての「衣類」・「靴」中心の輸出から、近年は「コンピュータ・電子製品・携帯電話」が輸出のトップシェアを占める構造に変化しました。

  • 電子機器・周辺機器|「Samsung Electronics」や「Apple」等サプライヤーの集積
  • 機械・設備|生産用設備の輸出増
  • 農水産物(コーヒー・コメ)|世界的な価格高騰、品評会での受賞実績等を背景に、金額ベースで大きく成長

1-5-1.ベトナムの主要輸出品目

[1-1.「チャイナ・プラスワン」による投資の集中]で先述した通り、昨今のベトナム輸出額を押し上げているのは、電子機器産業ベトナム輸出の主要輸出品目となっています。

中でも「スマートフォン、「半導体関連」、「電子部品」などが急拡大しています。

1-6.インフラ改善と物流拠点の整備

輸出拡大を支えるべく、ベトナム全土で港湾物流インフラの整備も進んでいます。

ベトナムの代表的な港湾には、「カットライ港」、「カイメップ・チーバイ港」、「ハイフォン港」があり、特に南部のカイメップ港は、大型コンテナ船が直接欧米へ航行可能な港として整備されています。

関連記事: ベトナム主要港一覧|日本向け輸出で利用される港湾ガイド

1-6-1.深海港(カイメップ・チーバイ港など)の機能強化

2010年代初頭から、大型コンテナ船が直接入港できる深海港の本格的な運用が開始したことで、シンガポールや香港での積み替え(トランシップ)を挟まずに、北米欧州へダイレクトに輸出できる航路が増加しました。

まだまだ進化過程の「カイメップ・チーバイ港」は今後増設も計画されています。

今後、港へのアクセスに直結する高速道路や橋等の大規模インフラ整備プロジェクトが完成することで、輸送時間の短縮物流コストの削減、そして、ベトナム産製品の価格競争力強化が期待されています。

同時に、これらインフラ設備完成後の期待値が、結果的に「外資誘致」にも大きく貢献していると言えるでしょう。

参考記事(外部サイト): カイメップ・チーバイ港湾群はインフラの改善により繁栄している。

1-6-2.近代的な物流センター(DC)と保税倉庫の拡充

大規模な資金力を背景に、外資系物流デベロッパーによる、最新鋭且つ高機能設備を備えた「マルチテナント型(複数企業が入居可能)」の巨大倉庫を展開しています。

単なる保管場所から、仕分け・検品・ラベル貼りなどの「流通加工」を担う拠点へと進化できる体制が整っています。

項目 GLP 日本通運 住友倉庫
展開エリア ハノイ周辺やホーチミン近郊で複数の大規模物流パークを運営 ベトナム北部ハイフォン「NXベトナム・ハイフォン・ロジスティクスセンター」 ホーチミン近郊
設備・
サービス
自動化対応の高い天井高、大型トラックが直接上層階にアクセスできるランプウェイ、太陽光発電を備えた環境配慮型等を設備 高度な在庫管理はもちろん、自動車部品や精密機器などの「キッティング」や「検品・ラベル貼り」等の付加価値サービスを日本品質で提供 繊維・アパレル業界向けに、「保管」や「検針」、「ハンガー納品対応」等、特殊な流通加工を提供

 

ここまで、「ベトナム輸出の成長における主要な6つの要因」を見てきました。

以下では、「ベトナム輸出の成長の影に潜む今後の5つの懸念点」をお伝えします。

 

2.経済に起こりうるマイナス要素と懸念点

輸出主導の急成長の裏では、経済構造の脆さも露呈し始めています。

輸出拡大は経済成長をもたらす一方で、いくつかの構造的リスクも抱えていることを知っておくことが大切です。

2-1.FDIセクターへの過度な依存|外資依存型経済

輸出の7割以上を外資系企業が担っており、内場企業(地場資本)の成長が追いついていない「二重構造」が顕著です。

もし、何らかの理由で、一斉に外資系企業が「ベトナムからの撤退」や「減産」、「投資減少」を実行した場合、輸出量・額が急減し、ベトナム経済は即座に打撃を受けるリスクを抱えています。

2-2.裾野産業(サポーティング・インダストリー)の未発達|付加価値の低さ

「原材料」や「部品」の多くを依然として中国などからの輸入に頼っています。

そのため、「輸出が増えても輸入も同時に増える」構造であり、国内での付加価値(利益)が残りにくい点が課題です。

以下、「物流コスト比率」と「その他付随項目」を、タイ、中国、日本と比べてみます。

項目 ベトナム タイ 中国 日本
1.物流コスト比率(GDP比) 約16.8% 〜 18.0% 約13.2% 約14.0% 約8.5% 〜 9.0%
2.輸出額(年間) 約4,059億ドル 約2,850億ドル 約3.4兆ドル 約7,100億ドル
3.輸出における純利益率 約3〜5% 約5〜8% 約6〜10% 約10%〜
4.実質GDP 約4,685億ドル 約5,200億ドル 約18.5兆ドル 約4.2兆ドル
5.輸出額のGDP比率 約86.5% 約55.0% 約18.4% 約17.0%

物流コスト(GDP)比率が、約16.8〜18%と、周辺国より高いことからも、純利益を圧迫していることが伺えます。

ベトナムの物流コストが高い最大の理由は、「トラック輸送への過度な依存(約77%)」です。

日本や中国に比べ、鉄道や内航海運の活用が進んでおらず、燃料費や人件費の上昇がコストに跳ね返っています。

現状の国内貨物輸送における、トラック輸送に対する過度な依存率(約77%)を緩和できるだけでもベトナムの物流市場全体に与える影響は大きいでしょう。

また、上表の最下部項目[5.輸出額のGDP比率]をみて分かる通り、ベトナムは、GDPの約86%に相当する額を輸出しています。

タイや日本と比較しても圧倒的に輸出依存度が高い経済と言えます。

輸出依存度が高いにもかかわらず、物流コストが大きいため、売上が増えても物流業者やインフラコストに利益を吸い取られ、上表の項目[3.輸出における純利益率]が残りにくい構造になっています。

別の角度から見てみると、ベトナムに投資している多くの製造業は、「組立加工型」です。

「部品を輸入し、ベトナムで組立、輸出」するという構造になっているため、国内企業の利益率技術蓄積が限定的な点も課題として挙げられます。

2-3.インフラのボトルネック(電力・物流)

急速な工業化に対し、電力供給や道路・港湾の整備が依然追いついていません。

特に北部の夏季の電力不足は深刻で、計画停電工場の稼働率を下げ、輸出の信頼性を損なう要因となっています。

参考記事(外部サイト): ベトナム北部では、2024年と2025年の夏のピーク時にも電力不足が続く見込み。

2-4.「中等所得国の罠」と賃金上昇

輸出増に伴い、ハノイやホーチミンなどの都市部を中心だけでなく、工業団地のある地方でも賃金が年々上昇しています。

労働生産性の向上が、賃金上昇のスピードに追いつかない場合、「安価な労働力を求める製造拠点がインドやバングラデシュへ流出する恐れ」があります。

2-5.米国・EUによる貿易規制リスク

2-5-1.貿易摩擦リスク

輸出拡大は経済成長を牽引する一方で、米国・EUとの貿易摩擦リスクという構造的課題を抱えることになります。(輸入国の国内産業への価格競争的な打撃)

2-5-2.輸入国側の懸念点に触れる|「ほんまにベトナム製か?」

[1-1.「チャイナ・プラスワン」による投資の集中]で先述した通り、外資企業の中には当然中国系企業も含まれます。

つまり、輸入国側の視点に立つと、「中国系企業により中国からベトナムへの生産移転の急増」は、「米中貿易戦争による関税回避行動」ではないのかとの懸念点への繋がります。

実際に、「中国からベトナムへ生産移転」したケースや「一部加工のみベトナムで実施」する流れが存在し、「実質的には中国製だが、ベトナム経由で輸出される商品」も少なくありません。

中国の視点に立てば、ベトナムは、「各国と強いFTA網を構築し、対米・対EUへの関税が低く、且つ地理的に隣接している」ため魅力的に見えない筈がないでしょう。

この構造は、原産地偽装等にも繋がる可能性がありますが、当記事の本題とは逸れるため、ここまでにしておきます。

 

3.まとめと今後のベトナム貿易の展望

ここまで、ベトナム輸出を急成長させている「6つの要因」と、その影に潜む「5つのリスク」を詳しく見てきました。

現在のベトナムは、単なる「安価な労働力の提供国」から、電子機器や精密機器が集積する「高度な輸出ハブ」へと劇的な転換期にあります。

政府が進める港湾施設の機能向上や南北高速道路といった大規模インフラ整備は、まさに輸出産業の成長を物理的に支える「大動脈」として機能し始めています。

しかし、輸出額が過去最高を更新し続ける一方で、現場の最前線では「成長の痛み」とも言える課題が噴出しているのも事実です。

「運べるが、コストが高い」 トラック輸送への過度な依存による物流コストの圧迫
「作れるが、リスクがある」 電力不足や原材料輸入依存による供給網の脆弱性
「伸びるが、油断できない」 賃金上昇や原産地規則を巡る国際的な規制強化

これらの課題は、ベトナム経済全体にとって、「中等所得国の罠」を回避するための試練であると同時に、進出している日系企業にとっては、「これまでのやり方が通用しなくなる」という警告と捉えることもできるのではないでしょうか?

今後、ベトナム貿易において重要になるのは、単に「ベトナムで作る」ことではなく、「いかに効率的で強靭な物流・供給網を構築するか」という点に集約されます。

具体的には、「鉄道や海上輸送を組み合わせたモーダルシフトの検討」や、「付加価値を高めるための流通加工拠点の戦略的な活用」が、競合他社との差をつける鍵となるでしょう。

数字上は絶好調に見えるベトナム輸出ですが、現場では依然として港湾の混雑や、急な賃金上昇に伴うコスト管理に頭を悩ませている担当者様も少なくありません。

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