ウイスキーの海外輸出における商社(販売代理店)のリスク分析と想定できる失敗例を考えてみる。
酒類の海外輸出は、免許事業(*)であるため日用雑貨など免許取得無しでスタートできるビジネスと比べ、参入障壁があります。そのため、ある商品ブランドの顧客の早期獲得・販路確立の2点において、先行者利益を得ることができる可能性が高いです。
また、酒類(特にウイスキーや日本酒)は嗜好品であり、ブランド価値が価格を決定するため、化粧品や日用雑貨といった生活必需品よりも、高い利益率を確保できます。
さらに一歩踏み込んで、特定の日本の蒸留所から、該当ブランドのフランス独占販売権を取得できれば、そのブランドが成長するほど、自社の企業価値も高まります。
一方、海外向けに、酒類を取り扱う商社特有のリスクや失敗例について想像できますか?
当記事では、ウイスキーの海外輸出における商社(販売代理店)のリスクと想定できる失敗例についてお伝えします。
(*): 輸出酒類卸売業免許は、海外の酒販業者(卸)や消費者(EC)等へ海外へ輸出できる酒販免許です。
①酒類輸出ビジネスの魅力
酒類輸出は免許事業であるため参入障壁が高く、先行者利益を得やすいのが特徴。
- 高い利益率: 嗜好品(ウイスキー・日本酒等)のため、ブランド価値による価格設定が可能
- 企業価値の向上: 独占販売権を取得しブランドを育成できれば、自社の資産価値に直結
②輸出商社が直面する「5つの特定リスク」
フランスへ輸出する際、商社が留意すべきリスクは以下の通り。
- ブランド毀損: 並行輸入品による価格崩壊や、偽造品流入による評判低下
- 通関拒絶: 厳格なラベリング規制(成分表示やロゴサイズ)による差し止め
- 品質管理: 輸送時の高温による液漏れや熱劣化(リーファーコンテナの検討)
- 契約打ち切り: 市場開拓後にメーカーから直接取引へ切り替えられるリスク
- 不動在庫・資金繰り: 現地景気の後退や、高い酒税・社会保障税の支払いによるキャッシュフローの圧迫
③実務上の重要な対策
- 契約の厳格化: メーカーとの契約時に「契約解除時の補償」や「並行輸入対策」を要協議
- 現地フォワーダーの活用: ラベル印刷前の事前検版や、現地の法規制情報の収集
- 保税物流の利用: 保税倉庫を活用し、関税や酒税の支払いを「売れるまで保留」して資金負担を軽減
- PL(製造物責任)への備え: 万全な品質管理に加え、現地のPL法や賠償責任に備える
酒類の海外輸出を行う商社の特有のリスクとは?
下記、酒類を海外取引向けに取り扱う商社特有の5つのリスクを見ていきます。
- ブランド毀損
- 通関拒絶
- 輸送中の品質管理
- 製造会社からの取引打ち切り
- 不動在庫化
①ブランド毀損リスク|偽物・グレーマーケット問題
私が住んでいるベトナム国内でも、酒類に限ったことではないですが、偽物や並行輸入品が出回っている場合が往々にしてあります。(シーバスリーガルとかね。)
せっかく、正規代理店として販路を広げても、他国経由で「並行輸入品」が安価に流入することで、簡単に現地の価格秩序が崩壊する場合があります。
また、「中身が偽物のボトル」が市場に混じり、ブランドの評判が落ちてしまった場合、正規代理店として活動している企業とは関係がなかったとしても、その責任を誰が取るかでメーカーと揉める事態に発展することも考えられます。
事業を開始する前に、社内はもちろん、お取引先の製造会社とも協議・契約を結んでおく必要があります。
②通関拒絶リスク|厳格すぎるラベリングと法規制
フランスでは、「エヴァン法(Loi Évin)」を筆頭に、酒類のラベリングや広告に対して非常に厳しい規制があります。
ニュース記事として報じられない事例も多々あるので、対策・対処法を立てるためにも、調査しておくべきです。
- 日本産クラフトジンのロゴサイズ不足
- ワイン・ウィスキーの「成分表示」漏れ
上記は一例ですが、通関手続きが保留となった場合、倉庫での全数ラベル貼り替え作業が発生します。その結果、数週間の遅延と数百万円単位の追加作業費用・倉庫保管料が発生します。
また、輸送中に(船上で)規制が変わり、到着時に「輸入不可」となるケースも考えられます。返送や廃棄には多額のコストがかかるのでこちらもお取引ごとに確認しておくポイントでしょう。
現地フォワーダーに、事前検版を依頼するべきです。ラベルの印刷前に、フランス現地のフォワーダーにラベルデザインを送り、「サイズ・フォント・コントラスト」が現在のDGCCRFの基準を満たしているか確認を取っておきましょう。
別途、保税物流(詳細後述)を活用することも、とても効果的です。
③品質管理リスク|「割れ・漏れ・劣化」のダメージ
赤道付近を通過する際のコンテナ内温度上昇により、コルクの乾燥や液漏れが発生し、フランス到着時に「熱劣化」していることがあります。(輸送にリーファーコンテナ(冷蔵・冷凍機能付きのコンテナ)を利用するなど貨物にとって適切な輸送を行う必要有り。)
酒類の輸送は、かなりデリケートです。高価な商品がすべて「ただのアルコール液」と化したら元も子もないですよね。
普段利用されているフォワーダーや酒類の輸出に特化している物流会社へ確認をとりましょう。
④製造会社からの取引打ち切りリスク|別会社に販路を奪われる
せっかく、フランス市場を苦労して開拓し現地で認知度を高めた途端、日本の製造メーカーが「これからは自社(または大手商社と)で直接やる」と言い出し、契約を打ち切られる。
…なくはない話ですよね。
こちらも、お取引先の製造会社と結ぶ契約書に、「契約解除時の補償金」や「期間」を厳格に定める必要があります。
⑤不動在庫化のリスク|資金繰り苦→事業継続困難
当ブログでも再三お伝えしているように、フランスで日本産ウイスキーが人気だと判断して、大量に仕入れたがブームが去ってしまった。
あるいは、現地の景気後退で高級酒が売れ残り、不動在庫化し、資金回収が困難に。
また、酒類は関税(日EU・EPA適用で0%)だけでなく、酒税(Excise Duty)と社会保障税(CSS)が課されます。
保税倉庫(Bonded Warehouse)をうまく活用できないと、売れる前に巨額の税金を支払うことになり、キャッシュフローを圧迫するので、予めシミュレーションしておくと良いでしょう。
保税物流とは、輸入された貨物にかかる関税(Customs Duty)や酒税(Excise Duty)、社会保障税(CSS)、付加価値税(VAT)の支払いを、一時的に保留した状態で保管・輸送できる仕組みです。
通常、フランスの港に到着した時点で税金を支払います。ですが、保税倉庫を利用することで、貨物を法的には「未通関(フランス国外扱い)」の状態のまま維持できます。
その他|見落としがちなポイント
フランスのPL(製造物責任)
万が一、商品に不純物が混入していて、現地消費者が健康被害を訴えた場合、フランスの法律に基づいて、製造者や輸入者が訴訟対象になります。
フランスのPL(製造物責任)は、製造者や輸入者などが被害者に賠償責任を負う制度です。EU指令に基づき整備されており、製造者の責任は重く、輸入者も責任を負うほか、オンラインプラットフォーム事業者にも責任が及ぶ可能性があり、開発危険の抗弁(製造時点での科学技術では予見不可能だった危険)の採用は加盟国に委ねられますが、多くの国で採用されていますが、日本法との違いや賠償額(懲罰的損害賠償など)に特徴があります。
EUのPL指令の制定・施行状況と新指令|日本の製造物責任法との対比において(.pdf)|消費者庁
①酒類輸出ビジネスの魅力
酒類輸出は免許事業であるため参入障壁が高く、先行者利益を得やすいのが特徴。
- 高い利益率: 嗜好品(ウイスキー・日本酒等)のため、ブランド価値による価格設定が可能
- 企業価値の向上: 独占販売権を取得しブランドを育成できれば、自社の資産価値に直結
②輸出商社が直面する「5つの特定リスク」
フランスへ輸出する際、商社が留意すべきリスクは以下の通り。
- ブランド毀損: 並行輸入品による価格崩壊や、偽造品流入による評判低下
- 通関拒絶: 厳格なラベリング規制(成分表示やロゴサイズ)による差し止め
- 品質管理: 輸送時の高温による液漏れや熱劣化(リーファーコンテナの検討)
- 契約打ち切り: 市場開拓後にメーカーから直接取引へ切り替えられるリスク
- 不動在庫・資金繰り: 現地景気の後退や、高い酒税・社会保障税の支払いによるキャッシュフローの圧迫
③実務上の重要な対策
- 契約の厳格化: メーカーとの契約時に「契約解除時の補償」や「並行輸入対策」を要協議
- 現地フォワーダーの活用: ラベル印刷前の事前検版や、現地の法規制情報の収集
- 保税物流の利用: 保税倉庫を活用し、関税や酒税の支払いを「売れるまで保留」して資金負担を軽減
- PL(製造物責任)への備え: 万全な品質管理に加え、現地のPL法や賠償責任に備える


